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タンザニアからの手紙 No.14

マウンテンゴリラに会いに行く その3:~ネイチャーウォーク~前編



金山 麻美(かなやまあさみ)



 ゴリラトレッキングへ行くグループを見送った後、ネイチャーウォークの手続きをしに公園の受付へ行く。受付には昨日の午後、そこでTシャツやゴリラの本を買ったときと同じ愛想のいいお兄さんがいた。
 ネイチャーウォークの選択肢の中には、無料でガイドなしで行ける20分くらいの川沿い歩き「River Trail」もあるが、昨日往復10分ずつしかトレッキングをしなかった私は、ここまで来たのだからもう少し森の中を歩きたかった。滝を見に行くコースはお勧めと耳にしていたので、それにした。難易度も中くらいの3時間コースだ。費用はUS$20。  申し込むと、9時にまたここへ来るようにとお兄さんに言われる。「ほかにも参加する人はいるの?」と訊いたら、首を傾げられた。

つり橋  いったんロッジに戻って時間待ちをして9時に引き返してくると、ゴリラトレッキングの集合場所にある小屋へ行くように言われる。ゴリラトレッキング一行が旅立ってしまった後の広場はひっそりしていた。ときどき、カーキ色の服を着た公園の関係者が通るくらいだ。小屋の中で一人待っていると、今日のガイドだという細身のデビッドがやって来た。 昨日はゴリラトレッキングのRグループのガイドをやっていたそうだ。26歳。どうやらこの日の朝、ネイチャーウォークに参加するのは私一人らしい。いざ出発と思ったら、ガードが二人必要なので、彼らが来るまでもうしばらく待つように言われる。ウォークの前後に銃を持った兵士が一人ずつ付くというのだ!実はゴリラトレッキングの時にも銃携帯の兵士が付き添っていた。これはゴリラ警戒のためではもちろんなく、この場所が国境に近いからだろう。当の兵士たちに「危険なの?」と訊くと「いやあ、万が一の時のためだよ」という返事が返ってくるのだが。

 デビッドからゴリラが人慣れするまでには2年から3年の期間かかるとか、その間はゴリラのグループにずっとついて歩き、森の中に何泊もしなければいけないとかいう話を聞いているうちに兵士二人がやってくる。何事も起こらないのだろうなとちょっと不安になる。

 私たちの泊まっているロッジの前を通り抜けた後に森の入り口はあった。デビッドはときどき立ち止まっては植物の説明などをしてくれる。パピルスをここの人々は茎でかごを編むなど色々な用途で使っているとか…。一応殊勝に聞き、メモも取り出してみるが、植物の名前のスペリングなど私に分かるわけもなく、いちいち確かめる時間ももったいないので、いい加減なカタカナで書いていた。だから、今になって「あの時、デビッドが言っていたゴリラの好きな草の名前はなんだったっけ?」と悔やむ羽目に陥っている。

 左右に草や木の生い茂った細い道に入っていく。湿った黒っぽい土の上を歩く。動物の糞などもときどき落ちている。道端のきらきら光る黒豆がたくさん集まったような糞はまだ暖かそう。「これは、ダイカー(小鹿の一種)の糞だよ。まだ新鮮だ」とデビッドが教えてくれる。この森には、ゾウもいるらしい。木の上にいるブルーモンキーを見た。

 ときどき立ち止まって、植物などの説明をしたりしてくれるが、それ以外はデビッドはすたすたと前を歩いていく。遅れないようにと私も少し速めに歩く。別に冷たい感じはしない。質問のボールを投げかけると素早く返してくれるし、ときどき座興のクイズ「ゾウの赤ちゃんはお乳を飲む時にお母さんの前方から飲むか?後ろのほうから飲むか?」*などで私の腕試し??をしてくれる。なかなかプロ意識が高いと思う。デビッドのもっと前を兵士が一人歩いていて、私のかなり後方にもう一人ついてくる。最初は私も兵士の同行にちょっとビビッていたが、彼らも目が会うと笑いかけてきたりしてくれるので、だんだんと、「私1人のために3人の男性がついてきてくれるなんて…」と気分がよくなってきた。

ブウィンディの森   森の奥から大きな荷物を抱えた男たちが何人も出てきた。だいたいの人がちょっとくたびれたTシャツやズボンといった服装で中にはビーチサンダルの人もいた。デビッドは彼らに軽く挨拶をする。その黒人の男たちの中にひとり、若い白人女性が混じっていた。デビッドと手のひらをぴしゃっと合わせ、「どうして来なかったのよ」などと笑いながら言う。デビッドが
「彼女は、ゴリラ研究者の一人で、カーターさん。ロシア出身でドイツの学校を出たんだ」 と紹介してくれる。
カーター女史は、20代後半といった感じで、とても明るい人だった。「滝に行くんだって?あそこは素晴らしいわよお」などとキャピキャピと私にも話しかけてくる。一仕事終わった開放感もあるのだろう。
デビッドによると彼女は森の中にポーターたちと入ってゴリラの頭数などを調べているそうだ。10日間くらい森の中でテントを張って泊まり、別の研究者と交替する。研究者たちは5人いて3人が白人で、2人がウガンダ人だということだった。
そのちょっと先の道の曲がり角にも大きな荷物の周りに集まっているラフな格好の男たちが10人くらいいた。次に森に入る研究者を待っているらしい。

 湿った土の道を登ったり下ったりしながら、だんだんと荒くなっていく呼吸と付き合っていた。細くて背の高い木、くねくねした枝たち、どこまでも伸びる蔦などが複雑に絡みあう森が現れてきた。深くて澄んだ緑色ばかりを集めて点描画したような森。トトロの森よりももっと奥が深そうだ。
「クールで暗い。これがレインフォレストだよ」
とデビッドが言う。
向こうの方から水の音が聞こえる。ひんやりとしている。暗いといっても薄気味の悪い暗さでは決してない。やさしく太陽の光を透かしてくれている。森の、森で生きているものたちの呼吸する音が伝わってきそうだ。全てを包み込む大きな森。命を慈しみ、育てて行く森。私も今、熱帯雨林のこの森に抱かれている、と思ったらマジで涙が出そうになった。たくさんの命、そしておおきな力を感じたのだ。

イボイノシシの母子  澄んだ流れが見えてきた。この川はこの周辺の人たちの命の水だそうだ。木の枝を集めてできた手すりも何もない橋をこわごわ渡る。兵士の一人が心配そうな顔をして見ていてくれた。
登り道がつづき、呼吸がかなり苦しくなってきた。日ごろ、運動をしていないツケが周ってきたなあと思っていると「あと3分で滝だ。がんばれ」とデビッドがタイミングよく励ましてくれる。滝の手前の川は橋がなかった。浅い川なので川面に見える飛び石の上を歩いて渡るのだ。デビッドが手を貸してくれる。ウォータープルーフの靴を履いてきてよかったと思いつつ、デビッドの足元をあらためて見たら、ゴム長靴を履いていた。なるほど。

*クイズの答え…哺乳動物の多くは母親の後ろ(お腹の方)にお乳があるが、ゾウは前方にあるそうだ。後ろにある例としてイボイノシシの授乳写真。

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                                                  (2006年8月1日)



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