ダルエスサラーム便り


 

タンザニア歳時記・No.5
― タンザニアのりんご―



金山 麻美(かなやまあさみ)



タンザニア産のりんご  この前、市場に行って嬉しかったのは、ぶっさいくなタンザニア産りんごが並んでいたこと。日本のりんごに比べれば、その4分の1くらいのサイズで、凹凸でゆがんでいたりするのだけれど、見ているとしみじみとかわいらしいと思うのです。
 数年前から、南アフリカ産のりんごが年中手に入るようになりました。日本のりんごの半分弱の大きさですが、さすが、粒は揃っていて絵に描いたようなりんごです。程よい甘さでそこそこおいしいですが、バナナが一本50シリングで買えるところ、一つ250シリングもします。
 今回、タンザニア産りんごは一つ50シリングで売っていました。日本のりんごに例えると紅玉に近い感じでしょうか。みずみずしい甘酸っぱさです。高原の緑の中にほんのり甘い香りが混じっているようなそんなあと味です。
 果物で味わうのももちろんいいんですが、このりんごを見るとワクワクするのは、アップルパイが作りたくなること。値段もそんなに張らないので、結構思い切って使えるし、またこの味がアップルパイの中身にぴったりなんだなあ。今年は怠けててまだ作ってないんだけど、書いてるだけで、よだれが出てきました-。

南ア産のりんご  私が市場でりんごを見かけたのは、4月の半ばでしたが、だいたい2月の半ばから出始めるそうです。暑い時期の終わりかけって時ですね。
 我が家の近所の果物屋でもりんごを見かけたので、産地調べをしようと
「ねえ、このりんごはどこからきてるの?」
 と果物屋のにいちゃんに尋ねたら
「ここだよ。ここ。タンザニアだよ」
 というお答え。
「(んなこたわかってるよ)タンザニアのどこよ?」
「ほら、あっちだよ。あっち。チャリンゼの方だよ」
「………」
果物屋  チャリンゼというのはダルエスサラームから車で西へ1時間ちょっとの町です。暑い時はダルエスサラームとほとんど変わらないくらい暑い平地の町です。んなとこでりんごができるかー!まあ、りんごがダルエスサラームにやってくる方向としては、「チャリンゼの方からくるよ」というのは、あっているので、全くの×印にもできないかなあとも思うのですが、このアバウトさ。これは、タンザニアにおけるりんごの占める位置にも関係しているのでは…という考察をわたしはいたしまして、りんごのタンザニアにおける呼び名を調査することになるのですが、これはまた後で。
 果たして、タンザニアにおけるりんごの主要産地は高度2000m級の土地が広がるダルエスサラームの西南に位置するイリンガ州だそうです。聞くところによると、イリンガのキペンゲレという高地に1900年頃ドイツ人がりんごの木を持ち込んだそうです。日本のりんご栽培もここ130年くらいのものだそうなので、タンザニアとあんまり歴史的には変わんないですね。国内での広まり方はかなり違うけれど。
 このキペンゲレ周辺のりんごは、輸送手段がほとんどないため、熟したりんごが道端にぼとぼと落ちているんだと。ほんとかね。

   さて、りんごのスワヒリ語での名称はいかに?
 英語-スワヒリ語辞典で調べると、ありました。apple は、tufaha ということです。しかし、です。イリンガ出身で、「小さい頃、よく食べたよ」というタンザニア女性にりんごを見せて、「これはスワヒリ語ではなんちゅうの?」と聞いたところ、「apple」。「他にはないの?」「ない」「tufahaって辞書には書いてあるけど」「そんな言葉は知らないわ」。
 その後、市場のおじさんをはじめ、10人ほどのタンザニア人に尋ねて見ましたが、みな、答えは同じ「apple」。一人だけ、「apple」と答えた後に、しばらく考えてから「tufaha とも言うかな?」と答えた人がいましたが。彼は、スワヒリ語の本場?ともいうべきザンジバル島とゆかりのあるムスリムでした。
 ちなみにスワヒリ語辞典で「tufaha」を調べると、「tunda lenye nyama ya majimaji matamu na ambalo likiiva agh. huwa jekundu.」と書いてありました。
日本語にすると、「みずみずしく甘い果物で、熟すと例えば赤くなる」ということです。りんご、ですよね。でも、知る人ぞ知る言葉なのでありました。
 質問に答えてくれた人たちに「りんごは好き?」と聞くと、一様に「好きだよ。買って食べることもあるよ」と答えてくれましたが、どうもその表情を見るとお愛想というか、実はマンゴやバナナなどに比べれば甘さも落ちるし、それほど好きではないのでは…と裏読みしたくなるような感じでありました。

 まあ、りんごがタンザニアで市民権を得るにはまだまだなんでしょう。でも、マンゴもパパイヤもいいですが、タンザニアのりんごも、もしかしたらアダムが食べたのは、これかも?というような、または、田舎から出てきたばかりの娘のような、懐かしさや素朴さがあります。ゴージャスな日本のりんごに慣れてしまった方には特に、一味の価値ありだと思いますので、もし、めぐり会った暁には是非ご賞味くださいませ。


         

(2003年5月1日)




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