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タンザニアからの手紙 No.52

Moolaade 母たちの村



金山 麻美(かなやま あさみ)



 主演のコレ役の女優(ファトウマタ・クリバリ)が素晴らしいのだ。セネガル出身のアフリカの巨匠センベーヌ・ウスマン監督のアフリカ発のこの映画をDVDで1回半見てつくづく思った。西アフリカの小さな村が舞台となっているが、ロケはブルキナファソのジェリッソ村で行われたそうだ。その村の光景や人びとの立ち居振る舞いの美しさ、カメラワークの素晴らしさなど見所はたくさんある。2度目に見たときにも、新たな発見がいろいろあって、飽きることがなかった。 FGM(女性性器切除)との闘いが大きなテーマのひとつとなっている映画だけれど、それは大きく取り上げていかなければならない問題ではあるけれど、この映画は芸術でもあり、大衆への娯楽提供でもある。ワクワクハラハラさせられ、登場人物に感情移入しながら、のめり込んで観られるのが映画の楽しさ、醍醐味であろう。


 ファトウマタ・クリバリがコレ役でなかったら、この映画はかなり別のものになっていたかもしれない。マリでテレビ局勤務しているという肩書だけはDVDの中のパンフレットにあったが、プロの俳優なのかどうかですら、わたしにはわからない。だけど、彼女の内面に込めた強さがにじみ出るような、様々なことを表情だけで語れる演技がなければ、映画の重みは全く違うものになっていたのではないかと思う。


 彼女がFGMから逃れてきた女の子たちをかくまうのをやめるように、夫からひどく叱責されるときにも、暗く重い表情になるだけで、ひるんだりおびえたりすることは全くない、そういうカッコいい女性を演じ切っていた。


 演者たちが世界的には無名だからといっても、もっと評価されるべきなんではないかとおもう。また、娯楽作品としての映画という取り上げ方がもっとあってもいい。監督もより多くの人にメッセージを届けようとして、文筆業から映画監督にシフトしたという。アフリカの映画というだけで、文化や風景やめずらしい風習、FGMの問題点ばかりが大きくクロ―ズアップされるのような映画評が多かったのには違和感があった。人間の描く人間たちのドラマなのだ。住んでいるところや文化は違っても同じところもたくさんあるはず。それを楽しみなかから、それぞれが、何かを感じ取っていけばいいではないだろうか。
 (ここからネタばれも含みます)




 でも、2回目が最後まで見られなかったのは、「今まで女に手を挙げたことのない」というコレの夫が、兄に半ば強要されるような感じで、コレを大衆の面前で鞭打つシーンを見続けるのがしんどかったからだ。コレに女の子たちの「保護」をやめるという言葉を言わせようとする。鞭を何度打たれても黙って立ったまま耐え抜くコレの姿を見て、村の女たちはだんだんとコレに声援を送るようになる、コレの娘は泣きながら見ている、が誰も止めようとする人はいない。夫は涙を流しながらも鞭を打ち続ける。「傭兵」と呼ばれる村の外から行商にきていた男が、見るに見かねて夫から鞭を取り上げ、鞭打ちは終わるのだが、「傭兵」は村の長老たちの怒りを買い、村を追い出されるばかりでなく、殺されてしまうのだ。


 ショックだった。「傭兵」が止めに入らなければ、コレは殺されていたかもしれない。その場合も間接的だけれど、コレを殺したのは村人たちとなる。その結末だとしたら、コレの次に立ち上がる人はいなくなってしまうのでは?村の内なる力、誤りを正す自浄作用はないということになってしまうではないか。監督はなぜこういう流れにしたのだろうか。その辺が腑に落ちないのだった。

 わたしは、女たちに夫を止めて欲しかった。アフリカ理解がまだまだ浅いのだろうか。


 センベーヌ・ウスマン監督は編集作業まですべてアフリカで行い、アフリカ発信の映画にこだわったそうだ。この作品が監督の「日常生活の英雄的行為」を描いた3部作のうちの2作めということだ。このときにすでに81歳だった。


   監督は2007年に84歳で他界するのだが、都市が舞台で政治に関わる物語で「The Brotherhood Rats」という3部作の完結編の作品が準備中だったという。
 残念である、と同時にその晩年まで衰えなかった意欲に驚く。ほかの作品も機会があったらぜひ見てみたい。







                                                     (2014年1月1日)


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