ダルエスサラーム便り

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MAWAZO KILA SIKU

為川 千秋(ためかわ ちあき)為川千秋

第3回 ゴンベの森


   
 8月に日本からのツアーのお客さんとともにゴンベ国立公園にチンパンジーの観察に行った。ゴンベは、キゴマから北方へ約30キロのタンガニーカ湖畔に位置し、ボートで約2時間かかる。2日間森の中を歩き、チンパンジーを追った。タンガニーカ湖をゴンベに向かって北に進む船から見る景色は、片手には常に山が連なり、その山の麓では漁に出る人々の小さな家がいくつも並んでいるというものである。それぞれの家の軒先では、ダガーというこの湖で一番よく獲れる魚がギラギラと太陽の光を反射しながら一面に干されている。ふと岸に目をやると、森から出てきたと思われるバブーンが歩いているのが見える。





 
 ゴンベの森の中に入ると、太陽の光を遮るほどの背が高い木々が生い茂っている、森を奥深く入っていくと、突如滝が現れる。何度Tシャツが汗を吸収したかわからないような暑さの中を歩き続け、遭遇した滝は、近づくとひんやりとして本当に気持ちがよい。そしてそのような環境の中にチンパンジーをはじめ、さまざまな鳥やブルーモンキー、コロブスなどの様々な動物たちが棲息している。



 ゴンベは、英国人のジェーングドール氏が、チンパンジーが木の枝や石などで道具を作り使用するという行動を発見し、その調査・観察でも知られている場所である。チンパンジーが住むこの環境には、豊富な種類の動植物が棲息していることを、ガイドや研究者から聞く話や彼らの行動から、見てとることができる。その行動とは、チンパンジーが毎日木の葉が多くついた枝や小枝を、曲げたり折ったりつぶりたりし、頑丈な寝床を作って寝ていることや、年間を通して150種近くの植物を食べていることである。特に後者は、酸味のあるオレンジ色のベリー、真っ白なミルク状のものが中に入った木の実などの栄養分がたっぷり含まれた植物をはじめ、花や茎など植物の種類は膨大である。なかには抗生物質や殺虫効果を果たす薬として食べている種類もある。チンパンジーは豊富な植物だけでなく、コロブスやブッシュバックなどの肉を食べることもあるという。



 チンパンジーの母子が木の枝に座っているところを観察していると、子どもへの強い愛情や家族の絆を感じる。霊長類の中で一番人間に近いといわれているチンパンジーであるが、その愛情の強さはもしかしたら人間以上であるかもしれない。聞くところによると、母親は普段は子どもを自由に遊ばせていても、何かあればすぐに子どもを危険から守ることができるように常に目を光らせている。寝るときも木の上の寝床でいつも一緒に寝る。枝に座って、先に自分が食べて安全を確認した食べ物を子どもに与えている姿、子どもが動き回っているときにとっさに力強く引き寄せ、抱きしめる姿から、全身で子どもを守り、育てるたくましい母親の姿が見てとることができた。生後約3年から5年はこのように母親の腕の中で育てられ、その後徐々にひとり立ちしていく。また、突然母親が亡くなってしまった際に、精神的ショックで病気になったり死んでしまったりすることがあるという話を聞き、彼らにとって母親の存在は相当大きなものであることを実感した。しかし、母親を失ってもその子の兄や姉が母親代わりになり、毛つくろいをしたり一緒に寝たりするという行動について聞き、同時に家族の絆の強さを感じた。

 このようにタンザニアで一番規模が小さい国立公園であるゴンベの森では、雄大な自然に囲まれて生きる、チンパンジーをはじめさまざまな動植物に遭遇することができる。 今回、このゴンベの森に入り、彼らの足跡や彼らの食べた植物や木の実の皮をたどりながら歩いていると、ふと彼らが暮らしているゴンベのような環境は世界中でどのくらいあるのだろうという疑問がよぎった。便利さや快適さを求め続け、もともとある環境を破壊してでも開発することが当たり前になっている私たち人間の行動に危機感を抱いた。一方で、チンパンジーの母子関係や家族社会での行動を見ていると、彼らの行動習性とは逆行した、日本社会でよく取り上げられているもろくなりつつある家族関係や子どもをとり巻く社会問題を思い起こさせた。 このゴンベの森の中での時間は、私たちに大自然の恩恵を被り生きていることを実感させてくれたとともに、どんな場所よりも安らぎの場であった。また、自分たちの行動や生活を見直すためのよい機会となった。



(2006年9月)


  *MAWAZO KILA SIKU(日々感じること)では、為川千秋がタンザニア生活の中で不思議に感じたこと、疑問に思ったことなどを綴っていきます。


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