最新リゾート情報(2012年3月)



No.29

ストーンタウンの時の流れとともにーエマーソン・スパイス(ザンジバル)
Emerson Spice (Zanzibar)
 
   1988年のザンジバルのストーンタウンは今よりもずっと旅行者が少なく、ホテルや宿屋も数えるほどしかなかった。

 その中のひとつ、入り組んだ迷路のようなストーンタウンの真ん中に構えていたのが、スパイス・イン(Spice Inn)というホテル。露店の果物売りなど、小さな店が並ぶ庶民的な一角にあり、モスクがすぐ目の前にあった。1泊30ドルほどの中級宿だったと思う。当時初めてザンジバルを訪れたわたしは、そこに泊まっていたわけではないのだけど、その界隈がストーンタウンの香りが色濃く感じられる場所だったことを覚えている。

 その建物の最も古い部分は、ザンジバルに拠点を置いたオマーンのサイード王が1836年に建築物の調査統計をとったときにはすでに記録されているという。シルク、銀、宝石などへの出費を厭わなかったという瀟洒な生活をしていたザンジバルのMwenyi Mkuu(昔からのシラージの王様)、ムハマド・ビン・アハムドがサイード王に表敬にタウンに来たとき泊まるための家だったそうだ。

 その後、香辛料などのインド系貿易商の持ち物となり、膚の色の違う様々な商人たちが売買を繰り返す活気のある空気の真っ只中に存在したこともあった。 1964年のザンジバル革命後の停滞期の後、初めてオープンする観光ホテル、ホテル・スパイス・インとして復活した。が、近年の観光地化の波に乗り遅れたのか、ここ数年しばらく門戸を閉じていた。

   そのホテルが周りの建物も取り込み、豪華に贅沢にお色直しをしてエマーソン・スパイスとして蘇ったのが2011年。 オーナーのアメリカ人のエマーソンさんが1989年に最初にザンジバル入りしたときから入れ込んでいたというこの建物。丁寧に改修され、現在6部屋が宿泊できるようになっている。

 オーナーによってそれぞれビオレッタ、アイーダなどと名づけられた部屋たちは、形や広さやインテリアがそれぞれ違ってちょっとゴージャスな雰囲気があり、ユニークでもある。ベランダもすばらしいのだ。木製の美しい手すりと歩くとちょっと軋むんじゃないかと思えるようなやはり木製の床はとてもアンティークで、時が止まったようだ。ここに座って路地を行きかう人や、バオというゲームに興じる人、そおおっとだけど、向かいのお家のお部屋の様子を見ていたりすると、観光地化された外向きのザンジバルではない、住んでいる人々の日常から立ち上る街の雰囲気を色濃く感じることができる気がする。それが、170年以上にわたるこの建物の物語と混じり合い、見物者の中で醸造発酵されてくるのかもしれない。一日中座っていても飽きないだろうと思った。

 泊まった部屋はビオレッタという名前で、濃い空色の壁と光沢のある紫色のカーテンが不思議な雰囲気をかもし出していた。天蓋の高いベッドの中には扇風機が設置されている。アンティークな雰囲気を残したまま機能的になった洗面所にはレモングラスの香りの石鹸がよく似合っていた。ほかのアメニティはとくになく、小さな冷蔵庫はあるけれど、テレビがないところもよい。

 朝食はベランダでとることもできる。自慢のルーフトップレストランではスワヒリ風(ザンジバル風?)料理のフルコースが味わえるのだけど、わたしの泊まった晩はすでに予約でいっぱいだった。早めの予約が必要なのだろう。

 お祈りを呼びかけるモスクからのアザーンの声、路地を走り回って遊ぶ子どもたちの笑い声、通り行くムココトーニ(リヤカー)のタイヤの軋む音、向かいの家からかすかに聞こえるラジオのタアラブ…このエマーソン・スパイスのベランダも街に溶けていく。そして150年前にはこの界隈を闊歩していたであろう商人たちの姿までもが現れてくるような気分になるのだった。


  ☆1泊1部屋朝食付き$175。ただし6月15日からは$200になるそうだ。
☆ルーフトップレストランでの夕食、1人$25。
















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